難しくない!親子で楽しむScratchプログラミングの第一歩
はじめに:家庭で始めるプログラミングへの期待と不安
お子さまの教育について考えられる中で、「STEAM教育」や「プログラミング教育」という言葉を耳にする機会が増えているかもしれません。将来のために子供に何か新しい学びを経験させてあげたい、そうお考えになる保護者の方もいらっしゃるかと思います。
しかし、「STEAM教育はなんだか難しそう」「プログラミングは専門知識が必要では?」「家庭でどうやって取り組めば良いのだろう」といった不安をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。また、「オンラインツールを使うのは初めてで、使いこなせるか心配」「子供が興味を持ってくれるか分からない」といった声も聞かれます。
この記事では、そのような保護者の方々に向けて、ご家庭で無理なく、そして何よりも楽しく、お子さまと一緒にプログラミング教育の第一歩を踏み出す方法をご紹介します。特に、世界中で使われている子供向けプログラミングツール「Scratch(スクラッチ)」と「Scratch Jr(スクラッチジュニア)」を中心に、具体的な始め方や親子での取り組み方、そしてよくある疑問への回答を丁寧にご説明いたします。
STEAM教育とは?難しく考えなくて大丈夫です
まず、STEAM教育について簡単に触れておきます。STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を組み合わせた言葉です。これらの分野を横断的に学ぶことで、現代社会に必要な創造性や問題解決能力、論理的思考力などを育むことを目指しています。
プログラミングは、このSTEAM教育の中でもTechnology(技術)やEngineering(工学)、Mathematics(数学)と深く関わる分野です。コンピューターに指示を出し、自分の考えた通りに動かす過程で、論理的に物事を考えたり、問題を解決したりする力が養われます。
STEAM教育やプログラミングと聞くと、難解なイメージを持つかもしれませんが、身近な例を考えてみてください。例えば、料理のレシピを考えるのは科学や数学の要素を含みますし、おもちゃを組み立てるのは技術や工学の要素があります。絵を描いたり音楽を奏でたりするのは芸術です。プログラミングも、特別なものではなく、何かを創造したり、問題を解決したりするための「道具」の一つと考えてみてはいかがでしょうか。
家庭でプログラミングを始めるメリットとオンラインツールの利便性
ご家庭でプログラミングに取り組むことには、いくつかのメリットがあります。
- 子供の興味やペースに合わせられる: 習い事のように時間や場所に縛られることなく、お子さまが興味を持ったときに、ご家庭のペースでじっくり取り組むことができます。
- 親子で共通の体験ができる: 親子で一緒に学び、一緒に作品を作る過程は、コミュニケーションを深め、子供の新たな一面を発見する貴重な時間となります。
- 創造力や思考力が育まれる: 自分のアイデアを形にするために試行錯誤を繰り返す中で、創造力や論理的思考力が自然と身につきます。
そして、オンラインツールは、このような家庭でのプログラミング学習を始める上で非常に強力な味方となります。
- 手軽に始められる: 高価な教材や特別な設備は必要ありません。インターネットに接続できるパソコンやタブレットがあれば、すぐに始めることができます。
- 費用を抑えられる: 後述するScratchやScratch Jrのように、無料で利用できる優れたツールが多数存在します。
- 多様な学習リソース: ツールだけでなく、使い方を解説した動画やチュートリアル、他の人が作った作品など、様々なオンラインリソースを活用できます。
- 場所を選ばない: 自宅だけでなく、インターネット環境があればどこでも学習に取り組めます。
オンラインツールを活用することで、プログラミング学習のハードルはぐっと下がります。
初めてのプログラミングにScratch/Scratch Jrをおすすめする理由
数あるプログラミングツールの中でも、お子さまの「はじめて」に特にScratch(スクラッチ)とScratch Jr(スクラッチジュニア)をおすすめします。その理由は以下の通りです。
- 視覚的に分かりやすい(ビジュアルプログラミング): 文字でコードを書くのではなく、「ブロック」を組み合わせてプログラムを作ります。パズルのように直感的に操作できるため、小さなお子さまでも取り組みやすいです。
- 無料で利用できる: Webブラウザ上で使えるオンライン版や、ダウンロードして使えるオフライン版があり、どちらも無料で利用できます。
- 対象年齢が幅広い: Scratch Jrは5歳から7歳くらいまでのお子さま向け、Scratchは8歳から16歳くらいまでのお子さまを主な対象としていますが、親御さんが一緒に取り組むことで、対象年齢以外のお子さまでも十分に楽しめます。
- 世界中で使われている: 世界中の子供たちや教育機関で活用されており、情報や作品例が豊富にあります。
- 創造性を刺激する: キャラクターを動かしたり、音を鳴らしたり、絵を描いたり、ゲームを作ったりと、子供たちの「こうしたい」というアイデアを形にしやすい機能が揃っています。
まずは、お子さまの年齢に合わせてScratch JrかScratchのどちらから始めてみるのがおすすめです。迷う場合は、お子さまと一緒に両方のWebサイトを少し覗いてみて、より興味を持ちそうな方を選んでみるのも良いでしょう。
Scratch/Scratch Jrを始めるための準備と基本的な使い方
ScratchやScratch Jrを始めるのに、特別な準備はほとんど必要ありません。
【準備するもの】
- インターネットに接続できる環境: Wi-Fiなどが利用できる環境をご準備ください。
- パソコンまたはタブレット:
- Scratch Jrは主にタブレット(iPadやAndroidタブレット)向けのアプリとして提供されています。
- Scratchはパソコン(Windows, macOS, Chromebookなど)のWebブラウザ(Chrome, Edge, Firefoxなど)で利用するのが一般的です。iPadなどのタブレットでもWebブラウザ版を利用できますが、パソコンの方が操作しやすいかもしれません。
- (Scratchの場合)アカウント作成(任意): 作品を保存したり、オンラインコミュニティで共有したりしたい場合は、アカウントを作成することをおすすめします。メールアドレスがあれば無料で作成できます。アカウントがなくても作品を作ることは可能です。
- Scratch Jrは通常、アカウント作成は不要で、アプリをインストールすればすぐに始められます。
【基本的な使い方(Scratchを例に)】
ScratchのWebサイト(scratch.mit.edu)にアクセスし、「作る」をクリックすると、プロジェクト作成画面が開きます。
画面はいくつかのエリアに分かれています。
- ブロックパレット: キャラクターを動かしたり、見た目を変えたり、音を出したりするための命令ブロックが種類ごとに並んでいます。「動き」「見た目」「音」「イベント」「制御」「調べる」「演算」「変数」「オリジナルブロック」といったカテゴリがあります。
- スクリプトエリア: ここにブロックをドラッグ&ドロップして組み合わせていきます。ブロックは上から順番に実行されるように繋げます。
- ステージ: 作成したプログラムが実行される画面です。キャラクター(スプライトと呼びます)が表示され、背景を設定できます。
- スプライトリスト: ステージに登場させるキャラクターの一覧です。新しいキャラクターを追加したり、削除したりできます。
例えば、「旗がクリックされたとき」というイベントブロックに、「10歩動かす」という動きブロックを繋げると、旗のアイコンをクリックしたときにキャラクターが10歩右に動くプログラムができます。
イベント
旗がクリックされたとき
動き
10歩動かす
これはあくまで簡単な例ですが、このようにブロックを繋げていくだけで、様々な動きやインタラクション(操作に対する反応)を実現できます。
Scratch Jrも基本的な考え方は同じですが、ブロックの種類が少なく、より直感的なアイコンが使われています。
親子で楽しむ!具体的なプログラミング活動例
さあ、ツールを開いてみましょう。まずは難しく考えず、お子さまと一緒に自由に触ってみることから始めてみてください。
ここでは、家庭で無理なく取り組める具体的な活動例をいくつかご紹介します。
【活動例1:キャラクターを動かしてみよう(Scratch Jr/Scratch)】
- 好きなキャラクター(スプライト)を選びます。 ScratchやScratch Jrにはたくさんのキャラクターが用意されています。
- 「〇〇がクリックされたとき」のような、プログラムを開始する「イベント」ブロックを選びます。
- キャラクターを動かす「動き」ブロック(例:「〇〇歩動かす」「〇〇度回す」)を繋げてみます。
- 旗のボタンなどを押して、キャラクターが動くか確認します。
- 色々な動きのブロックを試したり、向きを変えたりして、自由にキャラクターを動かしてみましょう。
- 「ニャーと鳴らす」のような「音」ブロックを加えてみるのも楽しいです。
まずは指示通りに動かす練習です。子供の「こう動かしたい!」という意欲を引き出してみてください。
【活動例2:簡単な自己紹介アニメーションを作ろう(Scratch Jr/Scratch)】
- キャラクターを選び、背景を設定します。
- キャラクターに「こんにちは!」などと「言う」ブロックを繋げます。
- 次に「〇〇秒待つ」ブロックを挟んで、別のセリフ(例:「私の名前は〇〇です」)を言うブロックを繋げます。
- 最後に動きや音などを加えて、簡単な自己紹介アニメーションを完成させてみます。
物語を作るように、ストーリーを考えながらブロックを繋げていくと、子供の創造性が刺激されます。
【活動例3:簡単なクリックゲームを作ってみよう(Scratch)】
これはScratch向きの少し応用的な活動です。
- クリックして遊びたいキャラクター(例:風船)を選びます。
- 「このスプライトがクリックされたとき」というイベントブロックを使います。
- クリックされたらどうなるかを考えます。例えば、「音を鳴らす」「隠す」「別の場所に移動する」といった動きを組み合わせます。
- クリック数を数える「変数」を使ってみるのも良いでしょう。
少し複雑な動きを作る際には、どのようにブロックを組み合わせれば良いか、親子で一緒に考えながら進めるのがおすすめです。インターネットで「Scratch クリックゲーム 作り方」などと検索すると、たくさんのチュートリアルが見つかります。
親はどのようにサポートすれば良いか?子供の興味を引き出すヒント
プログラミング学習において、保護者の役割は非常に重要です。しかし、プログラミングの知識がなくても大丈夫です。大切なのは、一緒に楽しむ姿勢と、子供の探求心をサポートすることです。
- まずは一緒に触ってみる: 親自身も初めての気持ちで、子供と一緒にツールを操作してみましょう。「これはなんだろうね」「こうしたらどうなるかな?」と一緒に探求する姿勢を見せることが、子供の安心感や興味に繋がります。
- 答えを教えすぎない: 子供が詰まっているとき、すぐに答えを教えるのではなく、「どうして動かないのかな?」「どこがおかしいと思う?」などと問いかけ、一緒に解決策を探す手助けをしましょう。自分で考える力を育むことが重要です。
- 子供のアイデアを肯定する: どんなに突飛なアイデアでも、「面白そうだね!」「どうやったらできるかな?」と肯定的に受け止め、実現のために必要な方法を一緒に考えてみましょう。
- 小さな成功を褒める: うまく動かせたとき、エラーを解決できたときなど、過程での小さな成功を具体的に褒めてあげましょう。「ここのブロックをこう繋げたら、キャラクターがジャンプしたね!すごい!」のように具体的に伝えるのが効果的です。
- 「こうしてみたら?」とヒントを出す: もし子供が全く先に進めないようなら、「このブロックを使ってみたらどうなるかな?」「さっき作った動きと組み合わせてみたら?」などと、解決に繋がるヒントを与えてみましょう。
- 完成させることが全てではないと伝える: プログラムが途中で完成しなくても、試行錯誤したり、新しいことを学んだりする過程そのものが学びであることを伝えましょう。
親がプログラミングの知識ゼロであっても、子供と一緒に学び、楽しむ姿勢があれば、子供は安心して新しい挑戦に取り組めるでしょう。
よくある疑問・不安への回答
Q: 親にプログラミングやオンラインツールの知識が全くなくても大丈夫ですか?
A: はい、全く問題ありません。ScratchやScratch Jrは直感的に操作できるように設計されていますし、インターネット上には初心者向けの解説動画やサイトが豊富にあります。何よりも、お子さまと一緒に「はじめて」の体験を共有し、一緒に学ぶ姿勢が大切です。保護者の方が完璧な知識を持っている必要はありません。
Q: 子供の画面時間が増えてしまうのが心配です。
A: 健全な利用のためには、使用時間のルールを決めることが重要です。例えば、「1日〇〇分まで」「この活動が終わるまで」のように、お子さまと話し合ってルールを作りましょう。また、ただ漫然と画面を見るのではなく、「〇〇を作る」「この問題を解決する」といった目的意識を持って取り組むように促すことも有効です。プログラミングで学んだことを、絵を描いたり、物を作ったりといったオフラインの活動に繋げていくことも意識してみてはいかがでしょうか。
Q: どんなオンラインツールを選べば安全でしょうか?
A: ScratchやScratch Jrは、教育用に開発され、世界中の学校や家庭で広く利用されています。公式サイト(Scratch: scratch.mit.edu, Scratch Jr: scratchjr.org)から利用することが最も安全です。個人情報の入力が最小限であったり、子供向けの配慮がされていたりします。オンラインコミュニティで作品を公開したり、他の人の作品を見たりする際には、個人情報に関わる内容を書き込まない、不適切なやり取りはしない、といった基本的なインターネット利用のルールを親子で確認しておくことも大切です。
まとめ:家庭でSTEAM教育の楽しい第一歩を踏み出しましょう
この記事では、家庭でSTEAM教育、特にプログラミング学習の第一歩を踏み出すための方法として、無料のオンラインツールScratch/Scratch Jrの活用法をご紹介しました。
- STEAM教育やプログラミングは、創造性や論理的思考力を育む上で重要ですが、難しく考えず、身近なものとして捉えることができます。
- オンラインツールを使えば、手軽に、そして費用を抑えて家庭でプログラミング学習を始めることが可能です。
- Scratch/Scratch Jrは、ビジュアルで分かりやすく、小さなお子さまでも取り組みやすい優れたツールです。
- まずは難しいことを考えず、お子さまと一緒にツールを触ってみることから始めてみましょう。
- 保護者の方は、プログラミングの先生になる必要はありません。一緒に学び、問いかけ、子供の「やってみたい」をサポートする応援団として関わることが何より大切です。
はじめてのオンラインSTEAM教育は、保護者の方にとってもお子さまにとっても、新しい発見と楽しい驚きに満ちた体験になるはずです。ぜひ、Scratch/Scratch Jrを使って、親子で一緒に創造する喜びを味わってみてください。
この一歩が、お子さまの学びの世界を広げるきっかけとなることを願っております。